Cinema Terminal Gate004 Final トークセッション(『渋谷四景』『雨に濡れたい気持ち』)

司会:谷川雛多氏

ゲスト審査員:中川駿氏(『カランコエの花』など)

       中川龍太郎氏(『四月の永い夢』など)

監督:杉山裕紀氏(『渋谷四景』/東京大学映画制作スピカ1895)

   久光祥平氏(『渋谷四景』/東京大学映画制作スピカ1895)

   坂本遼氏(『雨に濡れたい気持ち』/東京大学映画制作スピカ1895)


司会:まず杉山監督、久光監督に上映を終えての感想をお聞かせいただいてもよろしいでしょうか。

杉山:70分位の作品でちょっと疲れちゃった方もいると思うんですけど、観ていただいて本当にありがとうございました。上映後の感想としては、去年の夏からずっと秋ぐらいにかけて作ってきた作品で、自分が思っていたよりも色々なところで、色々な方に見てもらう機会をいただいて、一年経った今も多くの方に見ていただける作品になったことが嬉しいです、ありがとうございます。

久光:これだけ大きい会場で流していただいたのが初めてなので、皆さんがどんなふうにこの作品を見てくださったのか気になります。とにかく、去年自分が作った作品をこうして沢山の方に見ていただいて本当にうれしく思います。

司会:坂本監督はいかがでしょうか?

坂本:まずこういう会場で見ていただいて、何回も見る機会が与えられたということが本当に光栄で、うれしく思っています。

司会:続いて審査員の中川駿監督、各作品の感想を伺ってもよろしいでしょうか。

中川(駿)監督:『渋谷四景』から話をしていきたいと思うんですけど、70分、凄いと思いました。長編を構成する大変さは僕たちもよくわかっているので、徐々に徐々に登場人物たちの設定や背景が見えてきて、最後に進むにつれて盛り上がっていくあたりとか、最後の最後にどんでん返しがあったりだとか、70分を構成する力が感じられて、本当は学生映画という呼称はあんまりいい気分ではないかもしれないですが、学生さんが作ったとは思えないほど高いクオリティの映画で、非常に感銘を受けました。監督の構成力や、スタッフのみなさんの技術面が素晴らしい。特に僕が印象に残ったこととしては、俳優陣の演技がすごく素敵だと思いました。その最たるものが、宮本くんと島崎さんが、宅急便で荷物を届けた後、公園で再び会うじゃないですか。そのシーンは結構長くて、悪い言い方をすると、二人ともちょっと棒立ちで淡々と喋ってるんですけど、それが成立してるというのは本当に役者さんの力だなと思います。細かいところでいうと、会話の抑揚やテンポみたいなところで、台本を読んでいるわけではなくて、ちゃんと一つの会話が成り立っている、受け答えが成立している、新鮮なリアクションができているところがすごく見えたので、本当に素敵だと思いました。役者さんの間やテンポ感がすごくよかったということがあるのですが、あまりずっと褒めているというのも何なので、こうしたらよかったんじゃないのかというところも話したい。一番気になったのは編集です。セリフ終わりや、会話のバトンが受け渡しされたタイミングでカットが切られる場合が多い。会話を受けてからリアクションするまでの間がすごく良かったのに、そこでカットが入っちゃうからその素敵な間がちょっと潰されちゃっている感じがしました。逆に(その間が)なかったからこそ、死体を引きずっているシーンがあったと思うんですけど、途中で別のシーンを挟んでいます。長回しでずっと撮っている中で、役者の間が生きてくるカットだったので、そのような撮り方をするともっともっと変わってくるような気がしました。どうでしょう龍太郎さん。

中川(龍)監督:さっき会場に入ってきても役者さんがいて、隣の人も俳優さん、出てたね。中川監督というのも変な感じがするけど、中川(駿)監督もおっしゃっていたように役者さんの顔面力がすごくあるなと思います。映画は結局、ほとんど役者さんの顔を映していることが多いから、役者さんの顔の存在感が結構大事で、それが抜群にいいと思いました。何が難しいかって、僕も数年前まで学生映画を作っていたわけで、あまり厳しいことは言わないです、自分に返ってきそうだから(笑)。学生で作っていると年齢が近い人しかいないから、その中で作らないといけないじゃないですか。やっぱりヤクザだったり、便利屋だったり、そのへんのリアリティを世代の人で出すことはすごく難しいと思うんですけど、でもそこはああまりストレスなく観れた。本当にキャスティングがうまいし、役者さんともいい信頼関係があるんじゃないかなと思いました。結局お客さんは、まず入り口として、監督ではなくて役者を見るものだから、そういう意味では素晴らしいし、共感するところもあったなと思いましたし。一つはっきりよくないと思ったのは、台詞で説明しちゃうことが多すぎる。せっかくこんなに役者さんが素晴らしく、何より画で見せる力を二人の監督が持っていて、撮影技術も高いのに、どうしてこんなに喋らせるんだろう、もったいないなと思いました。今あるものを30分削ったらもっと絶対良くなる。それはシーンを削るんじゃなくて、ダラダラ説明していること、あれはいらないんだよ。そんなことしないでも、たとえば、子供がランドセルをしょって立ってる向こう側で、お母さんが首をつっているあのシーン、迫力あるじゃないですか。お母さんがどういう形でああなったかなんてことは、言わなくてもあれだけで十分伝わる。せっかくいいカットがあるのに、説明するせいで台無し。ああいうものを全部切って、今70分あるんだったら40分くらいにしたら飛躍的にいい作品になる可能性があるし、編集させて欲しいって思いましたよ。僕に編集させてくれればもっと全然よくなるって思いましたよ(笑)。お金をくれればやります(笑)。そういう意味でも本当にポテンシャルに満ちあふれた作品だと感じたし、これは超褒めてるってことです。偉そうに、褒める立場じゃないけれど。これは監督一作目ですか? 僕が監督一作目撮っていたときはもっと絶望に追いつかれるようなクオリティのものだったから(笑)、本当に立派だと思いましたね、将来有望じゃないですか。東大なんですか、二人とも。蓮實重彦と言う偉大な大先輩がいるんだから、彼の本でも読んで、要するに台詞が長い! あれ程なければ本当にいいものになりうるから、もう一回編集しなおしたらいいですよ。もっといい映画祭にいけるかもしれないですよ。編集こそが映画の本質だから。編集を通して学ぶことはすごく多いから。デジタルの時代、今こそデジタルでやりやすいので、二人でもう一回、たとえば20分に削るとかそういう宿題を決めて編集し直したらいいと思いますよ。偉そうにすいませんでした(笑)。

司会:出演者の方々の演技が素晴らしいという印象を受けて、それは演出によるところもあるのかなと思いました。共同で監督する際に、お互いの演出プランをどのように突き合わせていったのか、たとえば意見が割れるようなことはあったのか、お聞かせいただけますか。

中川(駿)監督:二人の役割分担も聞いてみたいですね。どういう風にやってたのか。

杉山:好きな映画のタイプが似ていて、一緒にいつか二人でやれたらいいねみたいな話をしていました。なんとなくプロットを二人で考えて、実際に脚本として書いたのは僕で、それを二人で練り直して、撮りはじめました。絵コンテは結構シーン毎に分けて、このシーンは僕が担当して、彼が担当してという風に分担して、お互いに確認して実際に撮影に臨みました。現場では絵コンテ通りに撮ることもあったんですけど、その場でカメラを通してみて、「こっちの角度の方がいいんじゃないの」「こういうカメラワークの方がいいんじゃないか」というところはお互い意見を出し合うような感じで撮影してました。意見が衝突することは現場ではあまりなかったのですが、ポストプロダクションでは結構割れるところはありましたね。死体引きずるシーンとかも結構扱い方が難しくて、最初10分くらいの長回しにしていて、最初はそのまま流したんですけど、結構それが見ててしんどいというか、ダレるところが結構あったりして。色々な映画祭に出すなかで、カットして他のシーンをインサートしたりと、編集で試行錯誤があったという感じがします。

中川(駿)監督:やっぱ論点は編集ってことですかね?(笑)

久光:以前はカメラや編集をやってたんですけど、彼の一作品目を見て、好みに近かったので、いずれ一緒に撮りたいねという話はしてました。話はずれるんですけど、サークルで機材係をやっていて、そこで新しい機材が色々と揃ったので、このタイミングでやってみようかということで、二人でやろうという話になって。授業の空きコマに、部室に集まってストーリーを考えていました。脚本は彼に任せたんですけど、撮影の技術面では僕のほうが知識があるので、先導する形で進めていきました。二人いたことのメリットとしては、学生映画で監督が一人の場合、どうしても、監督業だけじゃなくて、カメラマンとずっと話していて、役者に自分の意見をあまり伝えられないということが結構あると感じていたので、一人がカメラをやっている時に、もう一人が役者の子と話すとか、そういう役割分担ができたことが大きかったと思います。

司会:ありがとうございます。続いて、『雨に濡れたい気持ち』に移らせていただきます。田園風景や電車を映したロングショットが美しいという意見があったのですが、ロケーションを含め、画作りでこだわったことはありますか?

坂本:脚本を書く前に、ホウ・シャオシェンの『恋恋風塵』という映画を観ていました。彼の画作りには力があって、ほぼ固定で若干引いたりして、2分とか長回しが多いんですけど、観ていてなぜか飽きない。それを観て感動して、こんな雰囲気の映画を作ってみたいと思いました。先に映画のイメージがあったので、その後に脚本をつけたという感じです。一応原点はそこにあって、田舎のような風景で、固定で長回しをしても耐え得るようなロケ地を探して、あの駅のホームなどをロケハンしました。

司会:監督方はいかがですか?

中川(駿)監督:作品についてになってしまうのですが、とても面白く拝見しました。個人的な話になるんですけど、今劇場で公開している僕の『カランコエの花』という作品と類似点がほんとに多くて。女子高生、田舎、恋愛モノ、アイテムとしてクッキー使ってたりとか。すごく類似点があったので、他人事じゃないような気持ちで拝見しました。一番似てたのが、各シーンの導入部分の女子高生同士の会話。結構アドリブでやってました? エチュード?

坂本:はい、そうです。

中川(駿)監督:そうですよね。僕もエチュードで今回の作品を構成しているのでそこも似てるなと思いました。アドリブを取りこんで作品にリアリティを持たせる試みはすごく面白いと思うし、僕も非常に好感を持ってるんですけど、エチュードでやる時にほんとに気をつけなきゃいけないというか、僕も気をつけてるところなんですけど、エチュードで喋ってるところと、セリフになった瞬間のギャップが激しすぎて、今まで会話が被さるように喋ってたのに、急に順番順番で喋るようになったり、このインパクトがすごく大きいと感じてしまった。そこは僕も気にしてるところだし、エチュードという方法には良い面、悪い面あると思うのですが、悪い面として気を遣わなきゃいけないところだから、そこは気をつけたらもっともっとよくなるんじゃないかと思いました。今司会者の方からお話がありましたが、たまに入ってくる情景、引きの画がほんとに綺麗で、そこはもう監督の……。カメラは自分でやってるんでしたっけ?

坂本:はい、僕が。

中川(駿)監督:ですよね。監督の採択みたいな部分を感じたので、 すごく良かったと思います。あのような素敵な画を撮れるんだったら、先ほど龍太郎監督からお話がありましたけど、これも結構セリフで喋ってるところがあると思うんです。冒頭で「あと半年で卒業だね」とか、設定を言葉で伝えてしまってるところが結構あったので、もう少し展開で設定を説明するなど、言葉ではなく画で見せていくことの意識を今後持っていくと、もっともっと素敵な作品になる監督だと思います。今後も期待して作品を観てみたいと思いました。

坂本:ありがとうございます。

中川(龍)監督:僕もホウ・シャオシェンはもちろん大好きだし、『恋恋風塵』は大好きです(笑)。 まさにさっき(中川駿)監督がおっしゃってたように、エチュードでやっているところがあるせいでそれ以外が固くみえるというのはあるけど、女子高生は「俗に言う」のような話し方をするかな? などと思いました。具体的にどうしたらいいかと考えると、自然なものをエチュードで、ホウ・シャオシェンみたいに撮りたいなら、そのシーンで何を喋るかだけ決めて、全部エチュードでやっちゃえばいいんですよ。大体何を言うかっていう。監督だから「このセリフだけ言って!」というのはあると思うので、坂本監督の「どうしてもこれだけ言わせて!」というのを一個のシーンに一つくらいにして、あとは全部彼女たちに喋らせる、という風にした方がもしかしたらあまり浮かないのかな。一つのアイデアなのでそうじゃなくてもいんですけど、少しだけ思いましたね。ほんとに引き画は美しくて、「あっ、この引き画いいな」っていうのを僕は携帯で写メで撮っちゃったりしたくらい(笑)。今日ここで観てなかったから(笑)。あれで捕まっちゃうよね、テテテテ♪(映画泥棒の音楽)ってやつね(笑)。あれ鬱陶しいよね! 毎回映画やる前に雰囲気ブチ壊すよね(笑)。その話はいいんだけど(笑)、それくらい美しいカットがあって、しかもホウ・シャオシェンが好きなんて素晴らしいセンスを持っているんだから、全部あの引き画で、画だけで魅せることに一回挑戦されたらいいかなと思いました。あの話は、全部セリフゼロで作れるんですよ。セリフ要らないよあんなに。セリフなしで風景だけで魅せる覚悟を持つ必要が映画にはあると思います。たとえばあれを一回目を閉じて、映像を見ないで音だけで聞いてても全部内容わかるじゃないですか。だったらラジオでいいし、テレビでいいわけだよ。なんで映画でやるんだって話だよ。あんなにいい画を撮るのに、全部セリフで説明することには、これはさっきの『渋谷四景』の話にも通ずるけど、僕は怒りを感じた。せっかくいい画を撮れるんだから、あの素敵な引き画の持ってるセンスで彼女達を風景として切り取って同じ話を作ったら、ものすごく素敵な作品になるんじゃないかと思いました。

坂本:ありがとうございます。

中川(龍)監督:あ! でも一個だけめっちゃ良いな! と思ったのは、一個だけじゃないけど、画以外でよかったのは、成長や変化を描いてないじゃないですか、この映画は。

坂本:はい。

中川(龍)監督:普通は成長とか変化するじゃないですか、仲直りとか、大人になってどうのこうのみたいな。そういうのを描かないのは、僕はめっちゃポジ。いいと思いました。人間はそんなに簡単に成長も変化もしないですからね。映画で嘘みたいな、とってつけたような成長を見ると、チッって思いますよね。何も変わらないですよね、学生さんはあるかもしれないけど。僕、今28(歳)なんだけど。ほんとに1ミリも成長しない。だからその成長しなさみたいなことは素晴らしいセンスだと思いましたし、ホウ・シャオシェンが好きというのもそうだし、『四月の永い夢』という自分の映画も成長のしなさについてのテーマだったから、そういう意味では結構通ずるところはあると思うから、だから……。だからなんだ? だからなんだっけ(笑)。そういう意味では、そういう工夫して作れたらいいかなっていう、最後めっちゃ凡庸なまとめ方になっちゃったけど(笑)。 俺はその変化しなさをテーマにするのは素晴らしいと思いました!

2018年9月22日

大東文化大学大東会館

構成=山本航平、鈴江誉志、古川駆、二瓶直也

首都圏映画サークル連合

2014年9月5日発足の団体です。 2015年9月1日現在、21の映画研究部、映画研究会、映画サークルが所属しています。 運営はすべて学生が行い、首都圏映画サークル連合運営員会が、その中心を担っています。 学生映画の質・知名度の向上、各団体の繋がり強化のため、合同上映会や合同制作を行っています。