『マージナル』中村洸太監督インタビュー

Cinema Terminal Gate006コンペティション部門がオンライン開催となり、これまでのCinema Terminalにあったトークセッションや懇親会がおこなえない中で、また、「コロナ禍」によって学生映画が深刻な危機に直面している中で、学生の映画制作者の声を少しでも多くの方に届けるため、コンペティション選出監督のインタビューを掲載いたします。

コンペティションC『マージナル』中村洸太監督(立教大学シネマトグラフ)

聞き手:石丸峰仁(首都圏映画サークル連合代表)

石丸:選出おめでとうございます。

中村:ありがとうございます。二作品選出いただいたことは本当に驚きです。応募した時点では一作品でも引っかかればいいなと思っていたので。二作選んでいただいて光栄です。マージナルも万人に好かれる類の映画ではないと思うのですが、この作品の制作はすごく楽しかったので、それを評価していただき、純粋にとてもうれしいです。

石丸:『マージナル』は、コロナ禍という状況で様々なリモート作品が制作されている中で、一線を画していたと思います。シネマターミナルは制作の刺激を得られる映画祭を目指していて、時代性を考えた時、挑戦的なリモート作品である『マージナル』は多くの制作者に観てもらいたいと、委員会の総意で選出いたしました。本作品は、オンラインの境界を越えていく表現がなされていたと思います。オンラインミーティングを映画として取り入れようと思うと様々な困難があるかと思うのですが、『マージナル』はその難しさを乗り越えようとしているように思えました。そこで、監督には、このアイディアをどのように引き出してきたのか伺いたいと思います。

中村:まず、『残景』の反省点があり、役者をもっとちゃんと撮りたいというのがあり、とにかく、役者主導の映画にしたい、役者の身体をもっと撮るような映画にしたいというのがありました。それから、緊急事態宣言下というリモートでしか映画を作れない状況で、オンラインミーティングのツールを使わざるを得ないと思っていたのですが、どう考えても、ウェブカメラ、パソコンの内蔵カメラは、映画のカメラにはならないんですよ。それでどうしたら映画になるかと考えたら、フレームを強く意識させる作品にするしかないんじゃないかと。強気な言い方にはなってしまいますが、自分の考える映画のフレームで勝負するしかないのかなと思いました。やはり、リモート映画では動きが制限され、基本的に座り芝居にしかならなくて、それでは長時間持たせられないという葛藤もありました。

石丸:多くのリモート作品は映像を観なくても内容が分かってしまいますよね。

中村:そうなんですよ。プロの作った動きのないリモート作品を観てイライラしたりとかしたんですけど。

石丸:そうですよね、イライラしますよね。

中村:やっぱり画面の中で動いている映画であってほしいし、パソコンの画面が映画のフレームとしてどんどん立ち上がる作品にしたいというのはずっと思っていて、それを念頭に撮影しました。

石丸:リモートのツールっていくつか問題点があって、まず、画面上の相手の瞳と、カメラの位置が異なるために役者同士の視線が交わらないという問題があると思いますし、当人は向き合っているつもりでも、映画として観ると向き合っているように見えないという問題もあるかと思います。

中村:おっしゃる通りだと思います。

石丸:本作品はそうした問題に意識的だと感じましたし、基本的には一つの画面、フレームしか映さないように徹底されていて、リモート作品としては非常に新しいなと思いました。また、ある人物が物を投げ別の人が拾うといった、物理的な接触はオンラインでは不可能なので、登場人物たちの行動が繋がって見えるのは不自然な状況だと言えると思います。ですが、この本来繋がっていないものが繋がるというのが、まさに映画の方法であり、受け手にとってはよりリアルなものなのだと思います。

中村:ありがとうございます。最高の誉め言葉です。

石丸:いえいえ。私の感想はこの辺りにして質問に戻ります。本作品は物語の構造も特徴的かと思います。「ねえ、これは映画の話? 実生活の話?」という台詞がありますね。これによって、物語の信用性が損なわれるというか、登場人物さえも「劇中劇」と「劇」の境界をはっきりと認識できていないことが明らかになり、受け手としてはその境界を見出すことができなくなる。メタ的な構造となっていて、非常に面白いと感じたのですが、この着想はどのあたりにあったのでしょうか。

中村:そうですね。まず、メタ構造に関しては、これをやるためにはメタにするしかなかったんですよね。オンライン上でどんどん空間が繋がっていくというのは、やはりどう考えてもあり得なくて、メタ構造にするしかなかったんです。それがこの方法の限界でもあるかなと思っています。ずっとこれまで、「映画内映画」は避けてきたところがあり、やりたくなかったんですよ。「映画内映画」は二重のフィルターで判断されちゃうじゃないですか。

石丸:そうですね。

中村:それが嫌で。ですが今回、メタ構造を取り入れるにあたって、ちゃんと向き合いたいなと。ただ、撮影現場を舞台にすることは不可能だから、撮影準備を描かざるを得ない。その頃にちょうどジャック・リヴェットの映画を観ていて、あちらは舞台のリハーサルですが、映画のリハーサルを題材にするのも面白いかもしれないと思って、やってみようと思いました。

石丸:「映画内映画」は学生映画でよくやられるものだと思います。

中村:仕方ないとは思うんですけど。

石丸:実感のあるものなので良くも悪くもよくやられているんですが、それを取り入れるにあたっても、監督は正道で行かない、はずしていっている。

中村:はずしたいなと思っています。

石丸:それから、さきほどおっしゃられていたことに関連して、空間が繋がるということについてお伺いします。リモートの作品には空間が存在しないというのがあると思うんですけど、そんな中でも空間をちゃんと作り出したいという想いはありましたか。

中村:はい。それが自分の中ではっきりとしたのは、最初にこの映画のリハーサルをしたときに、出演してくれた馬場くん、ピンク色の服を着た男の人ですが、彼の家の間取りが非常に面白かったんです。リモート映画なので人の住んでいる空間を使うほかないのですが、今回のように空間を重ね合わせるようなことをしていると、映っているもの以上のものが見えてくるんじゃないかなとも思いました。当たり前ですけど、この映画に出てくる部屋の間取りはぜんぜん違うじゃないですか。だけど間取りを重ねると、存在しない空間、あたかも複数の部屋が合体したかのような異空間が浮かび上がってくるんじゃないかと、最初のリハーサルで強く感じました。

石丸:住空間というと、僕はやはり小津安二郎の映画を思い出します。彼の作品はイマジナリーラインを平然と超えていくので家の空間が繋がってないように錯覚するのですが、しかし当然ながら物理的にはつながっています。逆に本作品の住空間は物理的にはつながっていませんが、空間が繋がっているように見えました。それは体や物が境界を越えていこうとするからなのだと思います。

中村:そうですね。ただ、リモートで役者の動線を作るのはとても大変でしたね。特に二つ目の劇中劇が大変で、リハーサルの大半があの場面の試行錯誤でした。画面の向こう側にはいけないですし、画面上だと上手下手がわからなくなってくるんですよね。そうした、リモートならではの大変さはありました。普通にやれば一時間でできることが、三時間ぐらいかかったりして。

石丸:この方法で動きを繋いでいくのはとても難しいですよね。

中村:そのために間取りを重ねた図をパワーポイントで作って、そこで人に見立てた円を動かして動線を決めました。

石丸:なるほど。すごいですね。この作品がちゃんと繋がっていることには驚きがあったのですが、やはり綿密に組まれていたんですね。なかなか充実してきたと思いますので、最後に鑑賞された皆さまに一言、いただけますでしょうか。

中村:ご覧になるのは作り手の方々だと思うのですが、リモート映画はまだまだ可能性があると思うので、この映画が、皆さんがリモート映画を制作されるときのモチベーションに繋がるといいなと思います。

石丸:私も一人の作り手としてとても感銘を受けました。ありがとうございました。

首都圏映画サークル連合

2014年9月5日発足の団体です。 2015年9月1日現在、21の映画研究部、映画研究会、映画サークルが所属しています。 運営はすべて学生が行い、首都圏映画サークル連合運営員会が、その中心を担っています。 学生映画の質・知名度の向上、各団体の繋がり強化のため、合同上映会や合同制作を行っています。