『夏の迷子』根津大至・茂木麻琴監督インタビュー


Cinema Terminal Gate006コンペティション部門がオンライン開催となり、これまでのCinema Terminalにあったトークセッションや懇親会がおこなえない中で、また、「コロナ禍」によって学生映画が深刻な危機に直面している中で、学生の映画制作者の声を少しでも多くの方に届けるため、コンペティション選出監督のインタビューを掲載いたします。

コンペティションB『夏の迷子』根津大至・茂木麻琴監督(『東京大学映画制作スピカ1895』)

聞き手:石丸峰仁(首都圏映画サークル連合代表)

石丸:まずは選出おめでとうございます。

両監督:ありがとうございます。

石丸:ではさっそく質問をさせていただきます。選出されてのご感想をお伺いしたいと思います。根津監督からお願いします。

根津:この映画の撮影を始めたのが7月で、例年通りの開催だったら当然間に合わないので、もともとは出すことは考えていなかったんですけど。ちょうど9月の半ばに撮影が終わりそうでどうにか間に合うかもしれないと思って、ゴールとして、目標として定めたというのがありました。上がったらいいなというくらいに思っていたのですが、こうして選ばれて驚きましたし、多くの人に観てもらえることは嬉しいです。

石丸:ありがとうございます。茂木さんはいかがですか。

茂木:私はいままで監督をしたことがなくて、だから選出された時に自分の名前があることに驚きがありました。それはもちろん、共同監督だから名前があるのは当然なんですけど。なんか私の名前があるってびっくりして、選ばれたんだなと思いました。スピカの先輩による作品が複数選出されていて、それに並んでいるのが、すごく不思議な感じがしました。

石丸:ありがとうございます。さっそく作品の内容について伺っていきたいと思っていますが、その前に、共同監督ということで、お二人が制作においてどのような役割を果たしていたのか伺いたいと思います。お二人で企画をたてられていったのか、それとも分担されたのか、様々あるかと思いますがいかがですか。

根津:当初、企画したときは共同監督でなにかやろうという感じではなくて、まず二人で、こういう話が面白そうだよねという話をしていて、僕が茂木に撮ってよと言ったのがはじまりなんですね。そうしたら茂木が脚本を書きたくないって。

茂木:書きたくないんじゃなくて、書けないと思ったんですよ。

根津:それで僕が書くことになって。書き始めたら楽しくなってきて、いい作品になりそうだと。それで共同監督になりました。僕は画をイメージしながら脚本を書くので、まずは絵コンテの草案を出して、それを茂木とすりあわせて企画を作っていきました。基礎的な部分を僕が作って、そこから茂木と二人で相談しながら、あとはロケ地を二人で周りました。キャストは茂木に任せていました。外部から呼ぶこともあったので、そのあたりを茂木がやりました。

石丸:なるほど。茂木さんの持っていた企画があって、それを根津さんが脚本にして、お二人で制作にあたったということですか。

根津:だいたいそうですね。雑談から企画が生まれたという感じです。

石丸:そうなんですね。ということは、お二人で作品の内容について様々話し合われたと思います。どのようにイメージを共有していかれたのでしょうか。

茂木:最初、根津が主人公を演じる中野日愛里の新作を観たいと言っていて。

根津:新作を観たいから撮ってくれって言いました。(笑)

茂木:それで、ギャップのある日愛里ちゃんが見たいという話になって、普段の雰囲気と違う役をやってもらいたいって話から始まったと思います。

根津:最初に、主演の子を起用して映画を作りたいっていうのがあって。それがまず決まっていて、それから二人で話す中で30字くらいのログラインを作っておもしろい物語を考えていきました。それで、普段の雰囲気と違うキャラクター、いわゆるギャルのような反対の要素を入れていったら面白いんじゃないか。といった感じで企画が膨らんでいきました。

石丸:なるほど。それで言うと、『夏の迷子』は、ドメスティックなテーマを強調されているように感じました。しかし、映画の全体を取りまとめていってしまえば家庭を描いた物語というよりは主人公の成長譚になるのだと思います。成長譚を描くにあたって、家庭という、主人公の年代としてはとても普遍的なテーマを強調して取り入れられたのは意図があったのでしょうか。

根津:家族をストーリーに入れたのは、私たち、二十歳くらいの同世代にとって、家族というコミュニティが人生で占めてきたものが大きくて、普遍的とおっしゃられていましたが、そこに共感しやすい、身近であるというのがありました。僕の撮りたい映画として、日常の中に何か不穏なものが入り込んでくる。それで日常の本質が暴露されていく映画があります。そして、日常を最も感じさせてくれるのは家族であって、なのでこれを大きなテーマにしました。

石丸:なるほど。そうなると日常を描くための演出に気を配られたのではないかと思うのですが、いかがですか。

根津:台詞が語り過ぎちゃうと、観客が「作品だ」と気づいてしまうというのがあって、だからそのことは気を付けました。あとは、棒立ちで話していたり、逆に動き過ぎても変なので、動線を込みで考えるようにしました。ブランコを漕ぐ、飲み物を渡す、とか、動作を取り入れて、台詞を入れるようにして、少しでも日常を感じ取られるように演出しました。

石丸:ありがとうございます。それでは、そのほかにテーマを実現していくにあたって気を付けられたことはありますでしょうか。

根津:そうですね、画づくりはまず、観客のみなさんが内容に入っていくのに必要なものなので、そこのクオリティを保つために気を付けました。

石丸:なるほど。画づくりというところで言うと、一人二役で演じられている主人公と、その双子の妹が同時に映るショットがありました。こうしたショットを作る場合、非常に綿密に組まなければならなかったと想像するのですが、いかがですか。

根津:個人的な思いとして、一つのショットに二人が映っている必要があると思っていました。

石丸:一人二役をやる以上、それは必然であったと思います。

根津:しかし、上手くいかない可能性もあるとは思って、切り返しのショットでも撮ったんですけど。結果的に二人が同時に映っているショットが上手くはまってくれました。

石丸:一人二人の二者が向き合うことで映画に締まりが出ていたと思います。切り返しおっしゃられていましたが『夏の迷子』では、一人二役の場面以外も切り返しをはじめ、テンポよくカット割りがなされていたように感じます。ショットの構成で意識されたことはありますでしょうか。

根津:自分の好みのテンポがあって、すぐ切り替えていきたいんですよね。もちろん、その必要のない時にはしませんが、映したいものは常に変わっていくので、この作品については、それを映すためにはカットを多くした方が効果的だと思いました。

石丸:ありがとうございます。お二人は二年生とのことなので、作家性の面も伺ってみようと思います。これまで制作に携われてきて、作りたい映画や描きたいもののイメージが出来上がってきているのではないかと思うのですが、いかがでしょうか。

根津:日常の中に不穏なものを取り入れて日常の本質を暴露するという構想を受けたのが濱口竜介の『寝ても覚めても』でした。

石丸:なるほど。濱口竜介の映画にはそうした側面があるように思います。

根津:はい。それを観た時に、これが僕の思う映画の持つ力だなと思いました。それで、一つの軸としてそれを描く映画を撮りたいと思っています。非日常を非日常として描くだけだと、アトラクションに近いものになってしまいます。映像の持つ力はそれだけではないと僕は思っていて、ありのままをそのまま映すという映像ならではの特性を利用して、日常の化けの皮をはがしたいと思っています。映画が文章ではなく映像である理由を最大限利用した作品を撮りたいです。

石丸:映画が文章ではなく映像である理由というのは非常に難しいテーマですが、同時に避けて通ることのできないテーマですね。茂木さんはどうでしょうか。

茂木:今回の映画に関していうと私はキャスティングの部分に関わり、人の持つ印象というのは、変えられる人もいると思うんですけど、なかなか難しいと思っています。なので、第一印象にはなってしまいますが、根津と役のイメージを共有していたので、それに合う人を選ぶことにとても気を配りました。募集すると、経歴をたくさん書いてくださる人もいるんですけど、そうしたものにとらわれないようにキャスティングしました。

石丸:中年の人物や小さい子どもが登場していましたね。

茂木:はい。もともと事務所に所属している、それこそ知っている映画やドラマに出演した経験のある人も応募してくださったんですけど、そういう人は実力があると思うんですけど、そこにとらわれすぎないことを考えていました。

石丸:なるほど。とてもいい話ですね。経歴ではなく、たとえ素人でも役柄に適しているかを見極めるというのは、重要なことだと思います。そうしたことを踏まえて、お二人の展望についても伺いたいと思います。

根津:このまま将来まで映画を続けるかわかりませんが、環境的にも来年はまだ撮れると思います。今回の作品で、良いところがある反面、上手くいかなかったこともあり、だからこそ次を撮りたいという気持ちがあるので、上手くいかなかったところを修正していけたらと思います。

石丸:楽しみにしています。茂木さんはいかがですか。

茂木:表現の方法はいろいろとあり、映画はその一つだと思います。私は人の心を動かすこと、ものを作りたいと思っています。その手段の一つとして映画を考えています。私は一人で映画を監督したことがないので、やっていきたい気持ちはあります。何よりも、人の心を動かすものを作りたいです。

石丸:感動を与えたい、ということですね。それでは最後に観客に向けて一言お願いします。

根津:観ていただいてありがとうございます。自分の制作した作品をこれほど沢山の方に観ていただいたのははじめてのことで、お会いした時などには感想をぜひ教えてください。

茂木:ご覧頂きありがとうございました。共同監督という形ですが初めての監督作品が自サークルの枠を越えて公開できたことを嬉しく思います。私も是非皆さんの感想を聞きたいです。

首都圏映画サークル連合

2014年9月5日発足の団体です。 2015年9月1日現在、21の映画研究部、映画研究会、映画サークルが所属しています。 運営はすべて学生が行い、首都圏映画サークル連合運営員会が、その中心を担っています。 学生映画の質・知名度の向上、各団体の繋がり強化のため、合同上映会や合同制作を行っています。